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男は喉の奥で尚も沸き上がる笑いを噛み殺しながら、ベンチから立ち上がった。
「メシ、食いにいくぞ」
さっき私を見た氷点下の眼差しはどこへやら。涼やかな目元もほんの少しやわらかく、今更ながらその整った顔立ちにときめきかけていた。
「あ、奢りじゃないからな。ちゃんと返せよ、あとでいいから」
ときめき未遂でよかった。
ニヤニヤと私の反応を楽しむかのような口元がまた、ムカつく。
「いいですよ自分で払います。自分の分くらいっ」
カバンを抱きしめてベンチから立ち上がると、視界が揺れた。空腹と水分不足でめまいを起こしたんだとすぐにわかった。
やれやれ、というため息と共に二の腕を掴まれて意識が戻る。
「よくそこまで飲まず食わずでいられたな。呆れを越えて感心する」
「感心も、支えもいりませんっ! 自分で歩けますっ」
振りほどこうと腕を回してみるけど、振りほどけない。
そのまま引きずられるようにしてカフェに連れていかれた。
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