恋愛はただ座ってるだけじゃ、電車みたいにはたどり着かない。

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広々としたボックスシートに対角線で向かい合って座る。しばらく黙っていたけど、それにも耐えられなくなってきた。 大体この男、スーツ姿で品川駅にいたって事は会社員なのか? 仕事じゃないの? たまたま声をかけた女に付き合って電車旅なんて、する? もしかしてお金目当て?……お金ないけど。でなきゃ、カラダ目当て? 「……おい、その鬱陶しい視線、ヤメロ」 「じゃあ聞きます。なんで一緒に来るんですか」 「財布代わりだろ」 さらっと答えられた。 確かに品川に着いてからこの電車に乗るまで、全ての支払いを彼のカードで済ませている。 そんな事でこの男にメリットなんてあるんだろうか。女と一緒に旅行したかったとか? 「だからその鬱陶しい視線、ヤメロって」 「何にもわかんないから、疑惑ばかりが浮かぶんですよ」 かなり迷惑そうに私を睨み付けていた男は、深く息を吐いた。 「じゃあ何を教えればいいんだ?」 「とりあえず……名前」 「好きなように呼べ」 この男の真意が本当にまったくわからない。さらに疑惑が増えた事を素直に顔に出したら、男は「冗談だ」と笑った。
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