VII

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「よお!久しぶりだな」 混雑した居酒屋。 狭いカウンター席に座った恰幅のいい男が 片手を上げ、室長の洋介に声をかけてきた。 洋介が、近寄り隣の席に座ると 佐伯は、厨房の店員に生ビールを二杯注文して話を始めた。 二人は大学時代の同期。 卒業してからも、 縁は切れずに今も時々酒を飲んでいた。 「集中治療室に入っててな、 まだ意識が戻っていないんだ。 話が聞ける程の快復は見込めんらしい。 おそらく、植物状態になるかもって話だよ」 苦虫を潰したような顔で、 佐伯は話を始めた。 「公園で見つかったのは3日前の早朝。 公園でゲートボールをしている老人が、血だらけで倒れている少年を見つけた。 救急車で運ばれた時は、 既に瀕死の状態だったらしいんだ。 通り魔なんかの犯行じゃない。 異常な恨みを持った人間が、意識がなくなるまで被害者の少年を 殴りつけたんだろうって事だ。 決めつけて申し訳ないが、 残念ながら犯人は、他に考えられない。 少年には前がある。 それは俺から説明する事もないよな」 佐伯の問いに洋介は、力なく頷いた。 「少年が運ばれた後、人間関係なんかもシラミつぶしに調べたが、 今はすっかり大人しくなったらしい。 昔の仲間とも付き合いがなくなって バイトと家の往復だけで特に誰かに恨まれたりなんて事もない。 今、少年以外の血痕が見つかって、鑑識に出してる。 もう直ぐ結果が出て、はっきりするだろう。 その矢先にこの事故だ」 奥の座席で、大きな笑い声が聞こえる。 何処かの会社の集まりだろう。 佐伯は煩そうに一瞥すると 煙草に火をつけた。 「それにしても、なんで今になって なんでまた…… お前らも やりきれんな……」 佐伯は一気に話すと、 煙草の煙を苛々と吐き出した。 黙って頷いた室長に、更に佐伯は話を付け加えた。 「なぁ、洋介…… 野暮な推測はするつもりはない。 お前達が作った機械で俺たちも散々世話になっている。 聞きたい事は一つだよな。 川崎の車からは、何も発見されてない」 不味そうに酒を飲みながら 洋介は佐伯の言葉に頷き重い口を開いた。 「すまない」 「いや……お前とは腐れ縁だ。 言ったろ?詮索はせん」 洋介は深々と頭を下げた。
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