IV

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アパートに戻っても、 拓也は1日中、 今日の電車で聞いた事を考えていた。 夜中にビルの中を歩き回れるのは 警備員だけだ。 機械が一つなくなったのが、 もしバレたら…… でも…… 部屋の鍵をかけ忘れたのは川崎さんだし…… 騒ぎになっても 一番に責められるのは川崎さんで いやっ…… やっぱり、 騒ぎになったら一番に疑われるのは…… 俺だよな。 今夜は夜勤は休みだ。 もし返すとしたら明後日の夜。 そんな大それた機械がなくなった事を 明後日まで研究所の奴らが気づかないなんて、ありえないだろ…… 落ち着かず部屋を歩き回る拓也に 聡美が声をかけた。 「拓也、どうしたの? さっきから部屋の中うろうろ歩き回っちゃって なんかあったの?」 「いや……」 つべこべ悩んだって仕方ない。 もうやっちゃったんだ。 せめて、今日1日…… 今日1日ばれなきゃ、 俺だけじゃない。 今夜の夜勤の早川さんも疑われる事になる。 もし警備に呼び出された所で、 俺が夜勤した日は何にもなかったって そう言えば済む事だよな。 俺の親父は、この警備会社の大事な取引先の重役。 容疑はきっと あの早川さんにかかる。 無理に自分に言い聞かせて 腹をくくると 拓也はソファーにドカリと座った。 でも、この機械…… いったい、どうやって使えばいいんだ? 相手にやられた事と同じ体験をさせる。 仕返しか…… 拓也はソファーにもたれ掛かり考え込む。 機械を使って復讐したい相手にそれを取り付ける。 って……言っても…… 人を恨んでる奴をどうやって探すんだ? 電車で話していたあの二人は言っていた。 過去に酷い事をされてて それを恨んでる人は この機械を使いたい筈なんだ…… 何か上手いことやり方を考えれば…… 狭いワンルームの部屋で、 ソファーに足を投げ出し大声で笑いながらテレビを見る聡美を 拓也はじっと見つめた。 聡美はパソコンに詳しい。 このアパートにあるパソコンは ゲームをする為に繋いだようなものだった。 でも 聡美がここに住み始めてからは 埃を被った パソコンは息を吹き返したように フル活用させられた。 そうだよな。 聡美はパソコンでなんでも出来る。 「なぁ~聡美」 拓也はテレビを見ている聡美に 声をかけた。
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