V

2/33
148人が本棚に入れています
本棚に追加
/233ページ
「ここですね」 正志の問いに、黙って頷いた久美は開いた自動ドアに足を踏み出し、受付に声をかけた。 「失礼します! 本日お邪魔する事になっています、アートスペースの野口と申します」 受け付けに座っていた中年女が、 久美の声に立ち上がった。 「あら?お早かったですね。 お二人がいらっしゃる事は聞いております。 今、ホーム長を電話で呼び出しますので、そちらにお掛けになって少々お待ち下さい」 笑顔で頷いた久美と正志は 促されたソファーに座り辺りを見回した。 白を基調にした清潔感のあるロビー。 全ての壁には手摺が付いている。 段差のない造りのバリアフリー。 年老いた女性が、手摺を頼りに杖をついて歩いている。 介護士の若い男が駆け寄り、女性に声をかけた。 「おはようございます! 沢田さん、今日は顔色いいですね?」 「えぇ!とっても気分がいいの。 ほら、今日はいい天気でしょ? 天気がいいと、腰も痛まないのよ!」 足を止め窓を見る二人の姿を 久美と正志は黙って見つめた。 「朝ごはん、大丈夫かしら? 皆さんまだ、いらっしゃる?」 「まだ、9時前ですよ! 山下さんなんか起きてくるの10時近くです」 笑いながら廊下の先にある食堂へと向かう二人を目で 追っていると、 背後から声がした。
/233ページ

最初のコメントを投稿しよう!