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痛みに耐えながら――とぼとぼと歩き、家路を目指す。
見慣れた店の明かりが見えてくる。
明かりにうっすらと照らされた文字――。
『居酒屋 八千代』
ぼんやりと見える八千代の文字を見て、安堵のあまりその場に座り込みそうになる。
目頭が熱くなる。
「ありがとうございました~!!」
店の中から明るい声が聞こえてきた。
数人の男性が手を振りながら店から出てくる。
その男性の後から妙齢の女性が出てきて、笑いながら男性を見送る。
綺麗に纏められた黒髪に凛々しくて綺麗な横顔――。
地味ながらも品の良い柄の着物が良く似合っている。
店に入ろうとする女性に掠れた声で呼び掛けた。
「……千冬さん」
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