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「……答えろよ」
呟くような、哀しそうなその声に引かれるようにして――
「……なくした」
うつむいたまま、そう答えると、遥汰が微かに笑った。
「……もしかして、俺のこと……迷惑だった?」
「違っ……」
あわてて顔を上げ、答えようとする私を遮るように、遥汰がゆっくりと動いた。
「ごめん、なずなさん、優しいから……気を遣って、俺に断れなかったんだよね。ごめん……。もう……付きまとわないから」
それだけ言うと、私の顔を見もせず、すれ違って行った。
違うと言いかけて。
言葉を飲み込む。
今さら……彼になんと言えばいいのか。
彼を傷つけておきながら、弁解して、許して欲しいと。
そんな都合の良いこと許されるわけがない……。
私は、ただ、彼の背中を見ることしか出来なかった――。
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