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小さなアパートが建ち並ぶ街角を進むと見えてくる――小さな印刷工場。
大きな機械の音。紙が熱を通した時の独特な匂い。インクの香り。
それはふーこさんが一昔前の機械を使っているからで。
「好きだから」
そう言って笑っていたふーこさん。
「古くなったから……いらなくなったから、切り捨てて切り替えるばかりじゃ、さみしいじゃない」
――と。
それはまるで――
組織に使い捨てられる運命の私達“駒”に対する愛情のようで、嬉しかったのを覚えている。
大きな音のする工場の引き戸を開けて、中を覗く。
「あの……こんにちは!!」
機械の音にかき消されないように、大声で呼び掛ける。
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