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暖かな車内。
すぐに出るつもりでエンジンはかけたまま。
『実家まで送る』と折れない俺に少々不貞腐れ気味の彼女が、ちらりと後部座席に目をやった。
竹さんの料理を詰めたバスケット。
それを受け取り、江茉さん達に別れを告げる時に見せていた笑顔は、車に乗るとあっという間に消え失せた。
緊張しているのか、警戒しているのか。
機嫌は直った筈だ。原因は神崎邸での俺のひと言だろう。
「では、私はここで」
「家の前まで送ると何度言わせるつもりですか。いい加減観念しないと縛りますよ」
何かと理由をつけて逃げ出そうとする彼女の手首を掴み、缶コーヒーを一気に飲み干した。
「へ、へんた」
「『変態』?その程度の事で変態とは心外ですね。ご希望なら手取り足取り教えて差し上げますが」
「へ?」
「着物が乱れたらきちんと着付けてから家にお送りしますのでご安心下さい」
空になった缶コーヒーをドリンクホルダーに置き、口角を上げる。
反対の手で掴んだ彼女の手首の内側を、親指で優しく撫でた。
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