act.18 龍と人の哀

8/19
前へ
/19ページ
次へ
―――――― 「それじゃ、佐和さん、お先します。お疲れ様でした」 「はーい、気をつけて帰ってくださいね」 明るく笑う佐和さんに手を振り、勝手口から外に出たあと、ため息を吐く。 黄昏時の風が私の頬を優しく撫でていく。 ジーパンのポケットからスマホを取り出し、佐多からの連絡がないか、確認する。 確認しながら―― 遥汰の名前を探している自分に思わず苦笑する。 ――私も未練がましいなぁ……。 諦めると。遥汰をこれ以上巻き込まないためにも。傷つけないためにも。 別れようと。忘れようと決めた筈なのに――。 未練がましく期待している自分が情けない。 着信があるんじゃないのか? もしかしたら、前と変わらず待っていてくれて…… 「……なずなさん」 ――え? 聞き覚えのある優しい声。 ゆっくりと近づいてくる――人影。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加