第1章 ここに来て一緒に

10/22
62人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ
「ここにいてもしょうがない。とにかく、移動しよう」 「何処行くの?ホテル?…それとも、あなたの部屋とか」 目をきらきらさせるな。何期待してんだ。 わたしは彼女を促し、大通りの方へ向かった。タクシーを拾わないと。 「てか、自分の泊まるとこくらい自分で何とかしなよ。仮にも成人してるって主張するんならさ。…ちょっと、無茶してるみたいだから。念のため医者にざっと診てもらおう。話はそれから」 それで、健康上の問題がなくて本当に大人であることが確認できたらリリースすればいい。わたしにできることはせいぜいそこまでだ。 彼女の黒目がちの瞳が大きくなった。 「…こんな時間に?診てくれるお医者さんなんかいる?」 「知り合いだから。多分今の時間、もう家にいると思う。開業医のとこに勤務してる身だから、そんなに激務でもないし」 それでも、事前連絡は必要か。わたしは改めてスマホを取り出し、今度こそ本当に通話画面をタップした。 「ごめんね、こんな夜遅く急に」 ドアチャイムを押して出てきた彼に軽く頭を下げて詫びると、彼、真下翔太は愛想よくわたしを迎え入れた。 「何言ってんだよ、他人行儀だな。俺とお前の仲だろ。むしろ普段からこうやって急に訪ねて来たらいいの…、に」 わたしの背後から続いて入ってきた彼女に視線を吸い寄せられ、固まった。事情は事前に電話であらかた話してあるけど、どういうのを想定したか知らないがどうやら予測していたのと違ってたらしい。 「え、と、こちら…が」 もごもごとわたしの方へ助けを求めるように口ごもる。それでわたしも気づく。あ、そうか。そう言えば。 「名前…」 「あ、はい。南沢真砂と申します」 何でここだけきっちり丁寧語。 「…マサゴ?」 「真の砂で真砂です。二十三歳、独身です」 「…まぁ、でしょうね」 年齢はともかく。結婚しててあれやってたら、それはそれで怖い、すごく。翔太が思わず、といった様子で口を挟んできた。 「…二十三?本当に?」 確かに、明るい場所ではっきり顔を見てもつやつやのすべすべのあどけない童顔だ。翔太は彼女の身体もセックスも見てないから(わたしの貸した上着の前はきっちり留めさせてある)尚更不審に思うだろう。 彼女、真砂は可愛らしく口を尖らせてみせた。 「何でみんなして疑うんですか。大体高校生があんな場所であんなこと、…ああ、そうね、してたかなぁ既に…」 ちょっと目を泳がせて呟く。
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!