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「容赦ねぇな……。ホント、美人なのにもったいない……」
女から離れ、ぶつぶつと文句を言う銀狼に、女は微笑みだけを返し、再び歩き出す。
ふんっと鼻で苦笑しながら、銀狼が女の後を歩いた。
案内された個室のドアを女が開く。
「佐多様。銀狼様がおみえになりました」
「ああ……」
気のないような返事に、銀狼が個室の中を覗く。
円卓を前に。
こちらに背を向け座っている男――。
「珍しいね、サタタが俺に用事なんて。俺のこと嫌いなんじゃなかったの?」
声をかけられた男――佐多がほんの少しだけ振り返り、視線を動かした。
「お前……。俺は何度も言ったはずだぞ?“その呼び方はやめろ”って」
「しょうがないじゃん。多って字。タが並んでるんだもん。俺じゃなくて、漢字のせいだから」
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