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「あ……、あぁ……」
ただ焼けていくのを見ていることしか出来なかった。
吐いた息は白いのに、皮膚は熱い。そして、体の芯は冷えきっている。
火柱が雲に届きそう、そんなことを考えていた。
「――君っ! こんな所にいたら火傷をするぞ! 早く離れろっ!」
身体中に煤を付けた銀の防火服を着た男が、私の腕を後ろへ引っ張る。
だが、私の足は固まったままだ。
「もしかして……、ここの子なのか?」
『ここの子』つまり、この焼けている家の子供か? と訊ねられている。
あまりのことにその肯定の一言すら出てこない。
無理もないだろう。
私の家が、
私の思い出が、
私の両親が、
私の全てが、
目の前で燃え尽きていく。
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