第1章

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病院に連れて行かれて、再び戻って来た時には、全てが灰になった後、 そして、その後の僅かに残った欠片すら、警察に全て持って行かれた後だった。 だから、そこには何もなかった。 のちに火災の原因が明らかになった。 “火災の原因は寝タバコ” 有り得ない。確かに父は稀に煙草を吸っていたが、私に有害だと言って家の中では決して吸わなかった。 『どうして、たばこをすうの?』 そんなことを一度だけ父に聞いたことがあった。 「大人になったら、嫌な事でも仕事ならしなくちゃならない。 俺の場合、煙草を吸うのはその仕事が始まった時。そして、終わった後の合図みたいなものだ」 当時、訳も分からずに頷いている私の頭を苦笑にも似た笑顔で撫でていたのを思い出した。 私は嫌な事もある仕事について知らなかった。 しかし、これも一度だけ家に同僚を連れてきたことがあった。 『同僚の―――――だ』 と紹介されたが、名前は何と言ったかは忘れた。 だがその時、可愛くない熊の人形を貰ったことは覚えている。 その人形は手元に無い。火事で燃えてしまったのだろう。 .
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