第1章

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男がコーヒーを飲み下していく姿はやけに様になっている。 「てっきり、君は死んでしまったと思っていたよ」 当人の前でまるで他人事のように話す。 「そうですか。それは何と言ったら良いのか……」 気にしないで、とまた、あの笑顔になる。 「火事で出てきたのは焼死体は大人二人分だけ。 君が生きていて、施設に引き取られると聞いて探したけれど、見付けられなかった」 「遠い親戚に引き取られたんです」 顎に手を置いて、何かを思い出すふりをしている。 「確か、両親共に天涯孤独の身だったと記憶しているのだけれど?」 それも思い出さずとも、百も承知の事実だろう。 だから、敢えてそれに乗る。 「そうでしたか。そのおじさんとは今も仲良くしていますよ?」 少しして男は手を挙げて、降参を伝えてくる。 .
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