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「……今日の優勝は、恭子さんに……」
恥ずかしがり屋で照れ屋で、勇敢で命知らずな彼が言った。
「な、なんで、私なんかに……」
つまらない平凡な、地味で変わり者の私が聞いた。
「……俺に足りない物は、何が何でも勝ちたいという執念だって、師匠に言われてた。その意味が、やっと分かったんだ」
彼の瞳が、遠く、夜空を見つめる。その目に映るのは、きっと、大きく輝いている果てしが無い夢だ。だから彼は、少年のような瞳を持っているんだ。
「恭子さん、よかったら今度、美味いものでも食べに行きませんか?俺の優勝賞金で奢りますよ」
「私の大当り券で、奢ってあげてもいいけど?」
また二人、いたずらを含んでクスクスと笑い合った。
あなたの夢に、寄り添っていけるのなら……。
私は、大切に仕舞い込んだ大事なチケットを、ジューンブライドへのチケットに変える。そんな決意を胸に秘めた。
来年の私の誕生日にはきっと……。
ね?
私の不思議なアンテナは、もう役に立たなくなってしまったみたい。
目の前の、彼の熱しか感じ取れない。
だから、迷子にならないように、私の手をとって……。
あなたの夢に、連れていって。
【おしまい】
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