ジューンブライド・チケット

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 私が、休日に一人で出掛けるのにはわけがある。  恋人が居ないことは言わずもがな……なのだけれども、人には言わない秘密があるからだ。  私は、オーラを感じることができる。  オーラ、といっていいのかわからないけれど、特定の場所……パワースポットなどを感じるこが出来る。そこが初めて訪れた場所でも、賑やかな声が聞こえてきていなくても、温かく感じる場所を目指して歩いて行くと、目的の場所に行き着くことが多い。  便利といえば便利なのだけれども、そんな空想癖染みたことを人に説明することも面倒で、一人で勝手気ままに、光に惹きつけられて飛んで行く虫のように、フラフラと目的地もなく一人出掛けるのが気に入っている。  初夏のある休日、私は、毎日通勤で使う電車に乗り込んだ。いつも通り、地図も観光ガイドも頼りにせず、感覚だけを頼りに、心地よく感じる場所を目指して向かうつもりで居た。  そして、なんとなく、大森海岸の駅で降りた。『海岸』と名前につく駅なのだから、海の近くなのだろうと思ったからだ。たまには、海を見るのもいいかな、なんて。水辺は、いつだって癒やしを与えてくれる。  駅を降りて、スンッと鼻で匂いを嗅ぐ。潮風の匂いは、交通量の多い道路で消されてしまっているのか、感じることが出来なかった。だけど、心地よい風が流れてくる方向に向かって、歩き出してみた。風は、まだ早い夏の熱さを秘めている気がした。  その、顔に感じる微かな熱を頼りに、数分、大通り沿いに歩いてみた。自動車販売店の前を通り過ぎた時、そのお店の横の路地から、キラキラした輝きが見えた気がした。  海?  波の音も聞こえてこないけれど、私のいつものアンテナは、キラキラした場所へと惹きつけられている。私は、目的地を発見したワクワク感を感じながら、狭い路地を抜けて行った。
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