ジューンブライド・チケット

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「ボートレース?」 「そう、ここ、ボートレース場だから」 「へえ……」  私は改めて、大きなプールを眺めてみた。私はボートレースのことはよくわからない。テレビの特集で見たことがあるような気がする程度だ。でも、きっと、余熱を私に感じさせるほど、レースを観戦する人々の熱狂は凄いのかもしれない。 「あ!この数字」  私は手にしていたチケットにもう一度目を落として気が付いた。 「624……って、……6月24日、私の誕生日の数字だ!」  突然浮かれた声を出した私に、青年はちょっと驚いた顔をしながらも、 「もうすぐだね、おめでとう」 と、また、はにかんだ笑顔を見せてくれた。 「あんまりおめでたくもないよ?三十路になっちゃう」  はしゃいでしまった照れ隠しに、すねたような言い方をしてしまった。青年は、笑顔のまま、 「じゃあ、同い年だね」 と、嬉しそうに言った。 「え?」  思わず青年を上から下までまじまじと見つめてしまった。てっきり年下だと思っていた彼は、同い年だと言う。  少年を思わせる華奢な体付きだけれども、言われてみれば、目の端には笑い皺があり、指先は苦労を重ねた荒れ方をしている。  じっと自分を見つめる私の視線に、彼はキョトンとした顔をした。そんな表情をすると、やっぱり少年のように見えてしまう。  私は妙にドギマギしながら、 「こ、これ、もしかして当たってたりするかな?」  なんて、ちょっと上擦ってしまった声で言った。彼は、そよいできた風に目を細めながら答えた。 「どうかな?滅多に出ない数字の並び方だからなあ」 「……そうなんだ?」 「それに、当たってたら、もっと大事にしてると思うよ」 「……それもそうだね」  彼は随分とボートレースに詳しそうだ。もしかしたら、そこで働いている人かもしれない。 「そうだ!私、誕生日にここに来てみようかな?誕生日にこの数字を買って、そして当てるの!自分へのご褒美買えちゃう!」  私の唐突なアイデアに、彼は最初、驚いた顔をして、そして今度は、なぜか思案顔になった。その真剣な表情にドキリとしてしまう。彼は指を折り、日付を数えているようだった。そして、 「6月24日か……。いいね!誕生日に、おいで。ここへ」 と、私に向けて、白い歯を見せて笑った。
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