ジューンブライド・チケット

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 その笑顔を見た瞬間、ぽわっと自分の頬の熱が上がったのを感じた。そして、途端に恥ずかしくなった。初対面の彼に、変なことばかり言ってしまった気がする。 「あ、あの!お仕事中失礼しました!」  そう言って、私はペコリと頭を下げた。彼は、手にしていたゴミ拾い道具を軽く持ち上げ、照れたように、 「これ?アハハ」 と、笑った。その笑顔が眩しくて、無性に恥ずかしくなって、私はその場から逃げ去ろうと、クルリと踵を返した。 「あ、待って」  彼が私を呼び止める。 「は、はい!」  思わず直立不動で立ち止まる私に、 「ゴミ拾い、手伝ってくれてありがとう」 と、彼はビニール袋を差し出してきた。私は、なんだか捨てるのが惜しくなってしまったチケットを、その中にヒラリと落とした。落とした瞬間、決心した。 「あの……、私、誕生日に絶対にここに来ます!」  また君に会えるかも、という、期待を込めて。 「待ってるよ」  彼はそう言って、キラキラと耀く水面に目を向けた。その横顔は、やっぱり少年のようでいて、だけど、凛々しくもあって……。そして彼は、なんでもない事のように続けて言った。 「その日は、俺もレースに出てる」 「え?」 「俺は、ボートレーサーだよ」 「えっ?!」 「じゃあ、また!」  そう言って、先に立ち去っていったのは彼の方だった。遠くから、彼を呼ぶ彼の仲間の声がした。  私は火照った頬を抱えたまま、来た道を引き返していく。  私が感じた温かい熱の正体は、彼だったのかもしれない。場所でなく、人に対して熱を感じるのは……、生まれて初めてのことだった。
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