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あてもなく出かける予定だった私の休日は、とても素敵な出会いをもたらした。
この私の火照った頬では、いつものアンテナが働かずに迷子になってしまいそう。そんな心配から、私はもうそれ以上の探検をやめ、帰路の電車に乗りこんだ。
電車の中で、ぼんやりと窓からの風景を眺めていて、ふ、と、思いついた。淡い期待を込めて、手の中のスマホで検索をしてみた。
『ボートレース』『大森海岸駅』『ボートレーサー』……。
色々なキーワードを打ち込む私の指先は少し震えていた。心臓のドキドキが、指の先まで出てしまっている。だって、だって……。
一目惚れってあるんだったら、ついさっき体験してしまったのかもしれない。この歳になって、こんな風にときめいてるなんて、少し恥ずかしい。それに、こうしてコソコソと情報を求めてしまうなんて、まるでストーカーみたい……、なんて、変な後ろめたさも感じる。だけど、だけど……。このまま、あの爽やかな笑顔を忘れることなんて出来ない。
『6月24日』……、その日付を打ち込んでみると、求めていた情報が溢れだした。
あのボートレース場は、【平和島ボートレース場】という。
6月24日は、そこで行われるボートレース大会の最終日【優勝戦】だということ。
レースの出場選手一覧表を少し緊張しながら開いた。名前も知らないけれど、あの笑顔だけは目に焼き付いている。たくさん並ぶ顔写真を一人一人目で追う。一度目を流しただけでは彼は見つけられなかった。その絶望感と、二度目に目を流した時の興奮。電車の周りの乗客から見たら、さぞかしおかしな百面相にみえただろう。
だって、彼を見つけ出すのは至難の業だったのだから。小さな画面の中の彼のプロフィール写真は、随分と大人びていた。歳相応といえば、そうなのだけれども。彼の写真は、少し眉間に皺を寄せ、眼光鋭く、口を真一文字に結んでこちらを真っ直ぐに見つめている。私の出会った、恥ずかしがり屋の、少年のような笑顔の彼とは、随分と印象が違って見えた。どっちが本当の彼なんだろう……?ちょっと首を傾げて考える。そんな風に、彼のことを考えている自分自身がくすぐったい。
彼は、【東京支部 A2 志茂部祐三 29歳】。
私が彼から教えてもらった情報と重なる部分があることが嬉しい。
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