ジューンブライド・チケット

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 手にしたチケットを握りしめながら、大きな建物の、ぽっかり開いたトンネルのような通路を通り抜けた。  するとそこには、あの日見たよりも、もっとずっとキラキラと輝いている広大な水面が広がっていた。プールの向こうには巨大なモニターが色鮮やかに光を放ち、目の前を激しいエンジン音をたてたモーターボートが数台走り抜けていった。初めて見るボートのスピードと音に驚く。  圧倒されて、立ち尽くした私を、会場中に鳴り響くファンファーレの音が包んだ。  モニターには、大きく、『12レース 優勝戦』の文字が浮かび上がる。建物や場内のあちこちに居た人達が一斉にプール際へ、水飛沫がかかるほど近くへと押し寄せて行く。  その人の波に流されながら、私も身を乗り出すように鉄柵間際にやってきた。  この場所のパワーのせいか、それとも人々の熱気に当てられているのか、私の心臓はドキドキ言いっ放しで、頭がカッカと高揚していく。  人々の熱い視線の先に、六艇のボートが一斉に水面上に飛び出してきた。ヘルメットをすっぽり被ってしまっている選手の顔は見えない。でも、緑色の【6】のボートに、『志茂部』の名前が書かれているのを見つけた。私は彼を見つめながら両手を合わせ、息を詰める。  私の近くにあった大きな時計が急に回りだした。ボートのエンジン音が一斉に高まった。猛スピードでスタートを切るボートたち。興奮気味の実況中継の声、観客の雄叫び。それらは凄いパワーで、私の頭の中は、真っ白になってしまう。ただ、彼のボートをジッと見つめる。  目の前を、ボートは一瞬で過ぎて行く。まるで突風のよう。私は必死にそれを目で追う。ボートは、ずっと先の水に浮かぶブイをグルリと回って、Uターンをして、またこちらに戻ってくる。 「あーっ!」 と、周りから悲鳴に似た声が一斉に上がる。ターンをするときに、一艇が転覆してしまったらしい。レスキュー隊のボートがモニターに映し出される。私は、ギュウッと心臓が締め付けられそうになりながら、激しく波立つ水面を見つめる。  彼のボートは、次のターンを終え、また私の前を通り過ぎて行く。彼のボートと並走するボートがガツンとぶつかり、二艇が危うく揺れる。私は思わず目を瞑った。
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