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深夜――。
「ああ、ここや、ここ。おっちゃん、そこで止めて!!」
タクシーの中、カイトが運転手にそう告げる。
大きな総合病院の前にタクシーが停まり、カイトが声をかけてきた。
「蜥蜴ちゃん。着いたで」
カイトが呼び掛けている。
呼び掛けているのはわかっているけれど、反応できない。
ぼんやりと下を向いていることしかできなくて。
そんな私を見て、カイトがイライラするようにため息を吐いた。
「蜥蜴ちゃん。気持ちはわかるけどな……。しっかりせいや!!」
腕を掴まれ、無理やりカイトの方を向かされる。
「酷なこと言うけどな。これは現実や!! 逃避してぼんやりしてても、何もわからんまんまやろ!? しっかりせいや!!」
そのまま、運転手の方に向き――
「ありがとな、おっちゃん。これ。タクシー代。釣りはエエわ。その代わり領収書ちょうだい。後から佐多のオッサンに請求したる」
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