act.26 焔

27/29
前へ
/29ページ
次へ
「少し……いいか?」 そう佐多は呟き、車を倉庫の建ち並ぶ、埠頭へと停車させた。 「……お前は」 佐多が煙草を取りだし、火をつける。 「お前は……本気であの男を愛してるのか?」 あの男――遥汰のことか……。 何を今さらと思いながら、佐多に返事をする。 「ええ、愛してるわ……」 「何もかも……捨ててもいいぐらいにか?」 「ええ……」 今ある全てを捨てて、遥汰と共にありたい。 「もしも……」 佐多がこちらを向く。 佐多の表情に、思わず釘付けになる。 今まで―― 見たことない――。初めて見る顔だった。 この男が……こんな風に優しく笑う顔を―― 私は見たことない。 私は……知らなかった。 佐多の笑顔に引き込まれるようにして、身体の熱が上がっていく。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

26人が本棚に入れています
本棚に追加