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刹那――
凶悪な殺気を感じ、顔を上げる。
真横から空気を切るような流れと衝撃。
同時に肩と腹に走る凄まじい激痛。
再び、コンクリートの上に倒れこみ、激しく咳き込んだ。
「……やはりダメか」
頭の上から響く――身体を凍らせるような声。
「お前を……元の鞘に収めるのは無理って事か……。一度でも……飼い主に牙を剥いた獣を飼い慣らす事は……もう、無理なんだな……」
咳き込みながら見上げれば。
冷たい声とは裏腹に。
悲しげな顔をした佐多が、月明かりに照らされていた。
佐多から逃れるようにして、後退りすると、佐多が私の胸を踏みつけた。
「蜥蜴……」
それは――
甘くて、身体の芯を溶かしてしまいそうな程に――
優しくて切ない声――。
呼ばれる度に、歓喜でうち震えた――甘露な声――。
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