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「涼夜さまのお心を思えば、
そのように悲観的におなりあそばすのもわかりますが、
ですがこのように考えるといかかでしょうか?
降家と言う自由を手に入れて宮と言う柵から解き放たれると。
朱鷺宮のものとして、ひっそりと一目から隠れるように
生活をすることもありません。
今のようにずっと伴の物が付き従うこともありません。
涼夜さま、お一人で買い物を楽しむ自由も得られましょう。
好きな時に好きなところへご自身の意志と足で、
公共機関を使ってお出かけになることも出来ます。
涼夜さまの世界に様々な可能性が広がると言うことです。
今回の儀式をその為と、お考えいただいてはいかがでしょうか?」
自由。
そう言ってしまえば、確かに魅力的だと思えるが
だがそんな夢のようなこと現実に起こるはずがない。
俺には高望んでも手に入れぬものと、
はっきりと先に告げられている方が諦めようもある。
どれだけ飾られた言葉を告げられたとて、
その現実は何も変わらない。
「学校の事は、後で決める。
数日になるかも知れぬが徳力の当主のことを、
神前悧羅の内部情報で探っておきたい。
転校の有無は、そのデーターを集めた後に返答する」
「かしこまりました。
お疲れのところ申し訳ありません。
急ではございますが、影宮の徳力より本日午後から、
第一回目の話し合いをしたいとのご連絡を頂きました。
涼夜さまも、その心づもりでお願いします」
昼食をテーブルに並べる女中が俺を見てゆっくりと会釈する。
この女中は三年ほど前から俺付となった存在。
朱鷺宮の世話をするものも一族が決まっており、
代々、朱鷺宮が誕生した時はその家のもののみが携わることが出来る。
「片桐さん、いつも有難う」
「朱鷺宮さま、勿体ないお言葉でございます。
亡き祖母のようには参りませんが、
儀式の時まで、精一杯させていただきます。
何なりとお申し付けくださいませ」
その女中、片桐はゆっくりとお辞儀をして
部屋の隅に移動した。
フォークとナイフを使って頂く昼食。
倉智を何度も一緒に食べないかと
食事に誘っても、倉智がその一線を越えることはない。
一人で食べる味気ない食事を終えて、
合図を送ると、片桐が素早くその食器をひいていく。
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