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「着替えてくる。
倉智、服装はどうしたらいい?」
「和服の正装でお願いします」
指定された服装に頷くとそのまま自分の部屋へと戻る。
細やかな細工が施された桐ダンスの中から、
朱鷺宮の証がついた、紋付き袴を手に取ると、
畳紙(たとうし)から出して鏡の前に立ち、着付けていく。
全ての着付けが終わった頃、外から倉智の声が聞こえた。
「涼夜さま、御時間でございます」
倉智の声を受けて、自分の部屋から出ると草履をはいて出掛ける。
「どうぞ、迎賓館までの道を 八瀬(やせ)のものがお送りいたします」
倉智に言われるままに、
昔から朱鷺宮のものの為にのみ作られた輿に乗り込み、
八瀬の童子と呼ばれる代々、宮家の籠を担ぐことに誇りを持つ
彼らの手によって、ゆっくりと輿は浮遊した。
その籠の中で正座をしながら朱鷺宮の為にのみ作られた、
山深い迎賓館へと向かう。
何処までも表の世界から遮断された空間。
輿の小窓を開けると、
その隣を正装姿の倉智が付き従うように歩いている。
「涼夜さま、間もなく朱鷺宮の迎賓館でございます。
迎賓館の表にはすでに影宮の車が到着している様子です。
お籠は裏口より入室し八瀬の者が御簾の奥までご案内いたします」
「わかった」
輿だけでも仰々しいのに今度は御簾と来た。
倉智の言う通り、輿は建物の中にゆっくりと入り、
その奥の一室で掛け声と共にゆっくりと輿が降ろされた。
「涼夜さま、輿よりお出ましになっても宜しゅうございます」
ゆっくりと輿の扉が大きく開かれて、
俺はその空間から降りて大きく伸びをして首を軽くまわした。
そんな俺の様子に驚いたような様子を浮かべた八瀬のものは、
倉智の合図で輿を部屋から退室させていく。
「涼夜さまは、こちらのお席へ」
倉智に指定されるまま、
対面の間の一段高いところの中央に俺は座ることとなる。
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