2.拒否権のない未来

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「着替えてくる。  倉智、服装はどうしたらいい?」 「和服の正装でお願いします」 指定された服装に頷くとそのまま自分の部屋へと戻る。 細やかな細工が施された桐ダンスの中から、 朱鷺宮の証がついた、紋付き袴を手に取ると、 畳紙(たとうし)から出して鏡の前に立ち、着付けていく。 全ての着付けが終わった頃、外から倉智の声が聞こえた。 「涼夜さま、御時間でございます」 倉智の声を受けて、自分の部屋から出ると草履をはいて出掛ける。 「どうぞ、迎賓館までの道を 八瀬(やせ)のものがお送りいたします」 倉智に言われるままに、 昔から朱鷺宮のものの為にのみ作られた輿に乗り込み、 八瀬の童子と呼ばれる代々、宮家の籠を担ぐことに誇りを持つ 彼らの手によって、ゆっくりと輿は浮遊した。 その籠の中で正座をしながら朱鷺宮の為にのみ作られた、 山深い迎賓館へと向かう。 何処までも表の世界から遮断された空間。 輿の小窓を開けると、 その隣を正装姿の倉智が付き従うように歩いている。 「涼夜さま、間もなく朱鷺宮の迎賓館でございます。  迎賓館の表にはすでに影宮の車が到着している様子です。  お籠は裏口より入室し八瀬の者が御簾の奥までご案内いたします」 「わかった」 輿だけでも仰々しいのに今度は御簾と来た。 倉智の言う通り、輿は建物の中にゆっくりと入り、 その奥の一室で掛け声と共にゆっくりと輿が降ろされた。 「涼夜さま、輿よりお出ましになっても宜しゅうございます」 ゆっくりと輿の扉が大きく開かれて、 俺はその空間から降りて大きく伸びをして首を軽くまわした。 そんな俺の様子に驚いたような様子を浮かべた八瀬のものは、 倉智の合図で輿を部屋から退室させていく。 「涼夜さまは、こちらのお席へ」 倉智に指定されるまま、 対面の間の一段高いところの中央に俺は座ることとなる。
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