2.拒否権のない未来

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向かって左側。 紋付き袴の俺に対して十二単と言う正装で姿を見せた 徳力家の当主後見役。 その隣、束帯をビシっと着こなした俺付の後見役と紹介した男。 その二人の斜め後ろ。 少し控えめに束帯を身に纏って交わるのが 分家頭と紹介された後見補佐か……。 ここから見ると高校生になるばかりのガキ相手にどんな対面だよ。 マジかよ。 それが俺自身の本音。 「涼夜さま、影宮様よりご挨拶がございます」 倉智の合図でゆっくりと御簾の奥に居る俺に告げられる 影宮からの合図。 降家の後、徳力闇寿と華月が俺の影宮での両親となる旨が告げられた。 新しい家族、養父と養母となるのだと告げる言葉。 だがその『家族』と言う言葉に、俺自身の魅力は得られない。 俺自身の家族像に関する理想も思いも、遠い昔に崩壊している。 現当主が俺と同い年でまだ若く俺を養子にすることが出来ないなど そう言った徳力サイドの事情などをゆっくりと説明してきた。 同い年のヤツの養子に入るなんてまっぴらゴメンだ。 「涼夜さま、以上が影宮より伝えられし  降家の条件でございます。  ご了承頂けますでしょうか?」 了承も何も拒否権などない未来の癖に。 「了承した。  影宮の使者、同い年の当主に会える日を楽しみにしている」 御簾の向こう側へ届くようにやや声を張り上げて告げる。 「徳力の者一同、 朱鷺宮涼夜さまの御降家(ごこうか)を  お待ち申し上げております。  朱鷺宮さまのお言葉、当主・神威にも伝えておきます」 養父となる闇寿が静かに告げる。 「朱鷺宮様、神威はこの春より私の従兄弟、早城飛翔(はやしろ ひしょう)の  母校でもある香宮学院へと転校いたします。  神威に興味がおありでしたら、そちらに出掛けられてみてはいかがですか?  朱鷺宮様が、神威と良き関係を構築して頂ける日を私もお待ちしています」 華月はそう言うと深々とお辞儀をした。 御簾の中から三人を見送って八瀬の者が担ぐ籠で、 朱鷺宮邸まで戻った時には、もう夜になろうとしていた。 「倉智、部屋で休む。  半時を待ってダイニングに行かなければ、  俺は就寝したと思ってくれ。  片桐には目が覚めたように食べやすいように支度を頼む」 口早に告げると、引きこもるように自分の部屋へと入り、 内側から鍵をかける。
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