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通い続けた神前悧羅学院昂燿校。
中等部を三月に卒業した俺は春休みの為、
自宅である堅苦しい世界へと帰省していた。
俺の一族は今の日本を守る長を担う一族。
王室と言った言葉を使うと聞こえはいいが、
始終、誰かの監視にに囲まれた堅苦しい日々を
過ごす一族であることには違いない。
ガード、護衛と言う名の堅苦しさを経て得るものが、
この国の長だと言う地位。
だけどそれも公に宮に連なることを公表していない
俺の存在的にはどうでも良かった。
ただ宮と言う名を抱きながら決して表舞台にも、
その重責を担うこともなく孤立して育てられてきた俺、
朱鷺宮涼夜(ときのみや すずや)は、
自室で本を読みながら退屈な時間を過ごしていた。
兄である、司宮竜也(つかさのみや たつや)は
神前悧羅学院の悧羅校、高等部三年生に通いながら
すでに宮の一員として王室の仕事に携わる。
ボランティア会場などに視察に出掛けたり、
晩餐会などに姿を見せて、この国の為に出来ることを必死に行う。
そんな兄、竜也とは違い
今も一度も、公の行事に姿を見せたことのない俺。
一族に連なりながら、
その存在を一族からも忘れ去られているような
そんな錯覚すら覚える閉塞した時間。
「涼夜様、両陛下より大切なお話がございます。
お出ましいただけますでしょうか?」
扉の向こう側、ノック音の後に、
落ち着いた倉智(くらち)の声が聞こえた。
倉智孝仁(くらち たかひと)。
俺が生まれた時から、
俺の侍従としていつも身の回りのことや、
相談に乗って貰っている。
「倉智、陛下からの呼び出し?
行かないわけにはいかないか」
ゆっくりとドアが開かれて、
倉智が俺を見て、深々とお辞儀する。
「服装は?」
家族と言っても、陛下に会うのに
カジュアルな服装はマズいか。
家族とは名ばかりの遠慮が何処かに入ってしまうのは
昔からの癖なのか、それとも特殊な家柄が問題だからか
そんなことは今の俺には知る由もない。
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