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「長い間、昂燿校にて閉塞した時間を過ごさせて悪かった。
朱鷺宮涼夜。
涼夜が、その朱鷺宮の御名(おんな)を抱いた理由は
倉智より聞かされていると思う」
そうやって切り出された言葉で、
記憶を遡っていく倉智よりもたらされた昔話。
太古の昔より、この世界は影宮と呼ばれる
徳力家・生駒家・秋月家の三柱によって支えられている。
この影宮が本来の役割を全うできるべく、
表の一切を取り仕切るのが、現行の宮と呼ばれる俺たちの一族。
そして……現行の宮の一族と、
影宮の一族を繋ぐ、影宮への贄が朱鷺宮を司る俺自身の役割。
朱鷺宮を抱いたその時から、
俺は影宮へと生贄に差し出される存在として育てられてきた。
その時が来るまで。
その生贄が、どういうものを意味するのかは、
一切の知るところはないけれど、
その約束の時が来たのだと思い知った。
「朱鷺宮の名は影宮への生贄に与えられし名。
その時が来たと言うのですね」
刻み込むように、言い聞かせるように
ゆっくりと切り返す言葉。
「陛下も……いえ、お父様も心苦しいのですよ。
それに私も、苦しい。
お腹を痛めて産んだ我が子が、こんな運命(さだめ)を持って
誕生してくるなんて。
それでもこの世界を守るためには必要な事なのです。
わかってください、涼夜」
どんなに綺麗ごとを並べても、
事実が変わることなどない。
全ては時の刻印をつけて生まれて来てしまった
俺自身の運命。
「朱鷺宮涼夜を影宮、徳力の元へ降ろすこととなる。
手続きは恙なく済ませておく。
涼夜も心の準備をしておきなさい。
徳力の当主は涼夜と同い年だときいたことがある。
仲良くなれるといいな」
そう言葉を残して、
父親と母親はゆっくりとその部屋を後にした。
一人残された部屋で溜息を吐き出して
俺も、その部屋を後にする。
「涼夜さま、
お疲れ様でございました」
すかさず倉智が近づいてくる。
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