ああ、やっぱり朝のこの匂いは――

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 日曜日。  外はまだ薄暗い。  昨日昼も寝たし、夜も寝たから普通に早起き出来た。  けれど【煙草さん】はもっと早起きだった。  珈琲の匂いが、漂う。  ワタシがふすまを開けると【煙草さん】は珈琲を注いでいた。  ふーっと一息つく姿は、とても懐かしい。  ワタシの姿に気付くと、笑顔で「おはよう」と挨拶。ワタシもすかさず会釈した。 「ごめんね、早起きさせて」  そう言うと、【煙草さん】は煙草を一本取り出してライターを胸ポケットから引っ張る。  口に咥え、火を付けようと……。  ふと、ワタシを見てギョッとした。 「うわわ! ごめんね、煙草嫌がってたもんね!」 「嫌ぢゃないでず」  説得力が無かった。  それからワタシが泣き止むまで少し時間がかかり、ワタシは【煙草さん】を居間に迎えた。 「すみません。取り乱しました。それで用は……」 「えっと……コレ、なんだけど」  おずおずと、先程注いだ珈琲をワタシに手渡す。 「味が……その、心配で。ほら、ヒコさんが珈琲好きって聞いたから」  ヒコさんと聞いて、ピンと来た。  ああ、そうか。だから、最近毎日来てたのか。  父が決めたのなら仕方がない。だって、きっとワタシは昨日の時点で認めていたから。 「煙草、吸ってください。ワタシ好きなんですよ、煙草の匂い」 「あ、そう? って! ダメだよ? ワタシはもう戻れないけど煙草なんて吸っちゃ! いや、副流煙の方が駄目だから普通はワタシがやめないとなんだけど……」  ブツブツ言いながらも煙草に火をつける。  それを見てワタシは隣の部屋の父を叩き起こす。  ふすまを開け、久しぶりに見た父の部屋。その部屋を見た第一声が、 「はぁ!? 陽の光ない! ズルイ!」  である。それで父を起こせて、言いたいことも言えたから一石二鳥だが、文句は増えるばかり。  けれど、今は良い。  ワタシの声で「なになに!?」と慌てる父を居間に連れ出し、席に座らせ目の前に珈琲を置く。  【日野さん】も手招きして、母の定位置だった場所に座らせた。 「うん」  煙草を吸いながら父の様子を窺う日野さん。  珈琲を飲んでワタシの様子を窺う父。  そんな二人を見て頷くワタシ。  やっぱり好きだな、タバコーヒーの匂い。これまでも、これからも。
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