今日の朝の匂いは――

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 学校をつつがなく終えたワタシは、一緒に帰る友人も居ないので家に直帰する。  ボロいアパート。  自分の家。 「ただいま」  返事は無い。誰もいないようだ。  当たり前だ。父は仕事、帰ってくるのはワタシが寝てから一時間後とかそんな感じ。  但し、ワタシが寝るのは良い子のネンネタイムであろう十時辺りなので深夜に帰ってくるとかじゃない。  良い子ならその時間起きて親を待ったりするのだろうが、中学二年のワタシが起きて待って「一緒にご飯食べよっ(はーと)」とか言っても喜ばないだろう。  だから自分は冷蔵庫にある魚肉ソーセージを頬張り、夕飯を済ませて隣の銭湯に向かう。  仲の良い見張り番のおばあちゃんに挨拶して、体洗って、見張り番のおばあちゃんと大好きな珈琲牛乳を飲みながら世間について語らう。  時間もそこそこに、話を切り上げて洗面所で歯磨きを済まして家に帰り、明日の準備諸々を済まして布団を敷いて寝始める。  ――と、ガチャリ。  ドアが開いた。  なんてことだ。今日は帰りが早かったのか。  ワタシは耳を塞ぐ。途端に煙草の匂いが漂うのだ。  ワタシの部屋のふすまをスライドさせたであろう父の声が聞こえるのと同時に、煙草の匂いが強まる。 「おい、【煙草さん】が来たぞ。挨拶しろ」  駄目だ。寝たフリは下手だから。 「こんばんは」  起き上がり、目を伏せながら挨拶だけする。  【煙草さん】は手を振り、「ごめんね、起こしちゃった?」と気遣ってくれた。  ……やめて欲しい。優しいのは、やめて欲しい。  【煙草さん】が来ると、お母さんを思い出してしまうから。  ワタシは「いえ」と短めに返事して部屋に戻る。唯一、【煙草さん】の入ってこれないテリトリー。  そのテリトリーにまだ居た父に、つい問いかける。 「お父さん、珈琲は飲まないの?」 「珈琲は……いや、起こして悪かった。おやすみ」  その日、ワタシはなかなか寝付けなかった。
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