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おいしくない2月14日
白川杏は、いまとても困っている。
夕飯の買い物でスーパーに来たら…
『二月十四日は…バレンタインデー。恋人にチョコで想いを届けよう!」
スーパー中に響く甘い放送、商品棚に並ぶたくさんのチョコ。
そして、追い打ちをかけるように、杏の前にいま、一番会いたくない人物が姿を現す。
「あれ? 杏もチョコ買いに来たの?」
宇田川苺。彼女は、同じ専門学校に通う同級生で、高校時代からの友人。
「違うよ。夕飯の買い物だよ。ほら中身」
苺に証拠とばっかりに、買い物かごの中を見せる。
「本当だ。だったら、どうしてバレンタインデーのコーナーに居るの?」
苺は、同じクラスに付き合っている恋人がいる。
でも、彼女は料理が苦手だ。
だから、チョコも手作りではなく売っているものを渡している。
杏は、目の前にあったチョコを手に取ると苺の質問に答えた。
「私、このチョコが好きなの。だからここにいたの。じゃあねぇ」
急いでその場を離れようとしたら、苺が何かを思い出したように叫んでくる。
「杏。瑞樹君には、あげないの? いつもあげてたじゃん」
「…苺…あいつの話はしないで。私、バレンタインデー嫌いなの」
「……」
何も言えない苺。無言で去って行く杏を見送る。
苺の元を離れ、レジで会計を済ませた杏は、そのまま家路についた。
☆
テーブルの上に並ぶ夕飯の材料とミルクチョコのクッキー。
今日の夕飯は、ミートパスタとポテトサラダ。
「苺の馬鹿。どうして、今更、瑞樹の事……」
古村瑞樹。杏の元恋人。
彼とは、高校時代から一年前の二月十三日まで交際し、十四日の朝に別れを告げれらた。
そして、二月十四日は杏の誕生日。
二月十四日に、毎年渡していたこのミルクチョコのクッキーこそ、杏がさっき苺に対して好きって言ったあのチョコ。
杏は、料理は得意な方だが、お菓子作りだけは苦手。
だから、チョコは店で買ってものあげていた。
このチョコは、初めてのバレンタインデーの時、彼がおいしいって言ってくれた思い出のチョコ。
けど、一年前は、練習して彼の為に、手作りチョコを作った。結局十四日に別れたから粉々に崩して泣きながら食べた。
チョコに罪は、無いから。
★
「いただきます。そして、さようなら」
わたしは、夕飯と元恋人がおいしいと言ってくれたチョコを食べ始めた。
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