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1年前のビターチョコ
『ごめん別れて欲しい』
『…わかった』
「瑞樹! 話聞いてる?」
「…ごめんもう一回いい?」
友人の金鳥俊は、ため息をつきながら瑞樹の前にある本を指差す。
二人が居るのは、瑞樹が大学に進学する為に引っ越してきたアパート。
「今日は、瑞樹が、料理ご馳走するから来いって言うから楽しみに来たのに、結局俺も作る事になってるし。それになんか知らないけど、お前いきなり黙り込むし」
「ごめん。考え事してただけ。さぁ続きやるか。次は、みじん切りにした玉ねぎを」
二人が作っているのは、ハンバーグとビーフシチュー。
ビーフシチューの方は、煮込むだけ。
「もしかして明日の事でも考えてた? いいよなぁ恋人がいる奴は。杏ちゃんだっけ? かわいいよなぁ。俺も彼女欲しい。バレンタインデーにチョコくれる女の子が」
俊が、羨ましそうに瑞樹の肩に両手を置く。
瑞樹は、その手を力強くどかした。
「あいつとなら1年前に別れた」
「えっ! 何で高校時代から付き合ってるんだろ」
「自分の時間が欲しくなって、彼女の誕生でもあるバレンタインデーに別れた」
過去の話でもするように、俊にそう告げるとフライパンで玉ねぎを炒め始めた。
「瑞樹、お前そんな理由で彼女と別れたのか?」
「あぁ。杏には、別れて欲しいしか言ってない。あいつも分かったしか言わなかった。それから一度も会ってない」
玉ねぎを炒めながら答える。但し、こっちは振り向かない。
パァッン! パァッン!
瑞樹の手から木べらが床に落ちる。
「何するんだよ」
「瑞樹の大バカ野郎!」
「俊?」
俊の言葉の意味がわからず赤く腫れた頬を左手で抑える。
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