Smoke gets in Your eyes

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――――――――――――――――――――――― ―――――――――――― 「俺だ。終わった、戻る」 閑散としている公園に男の声だけが響く。 辺りはこれから1日を始める者達の音が所々に散っているが、しかし男がいる公園は喧噪など無関係だと言わんばかりに、静かにその場所に存在する。 「判定は『白』。地縛霊の烙印は必要ない。今送った」 男はおもむろに懐からタバコを取り出し、電話をかける合間に火をつけると、白くて紫と喩えられる煙を吐き出す。 そしてちらりと公園の先、大通りの一角に佇んでいる小さな花の群れを見やる。 「ああ、彼女の両親や友達に言ってやってくれ。もう大丈夫だ」 男は言って電話を切ると、タバコを仕舞っていた懐から携帯端末のようなタブレットを取り出し、先程まで目の前にいた女性の履歴を開く。 タップとともに画面に『safe(無害)』と書き込まれると、女性の履歴がパズルのように分解されて消えていき、新たな人物の顔写真とプロフィールが表示される。 「次はこいつか」とつぶやいた音を最後に、いつの間にか公園には人気がなくなっていた。 代わりに、どこの銘柄かもわからないタバコの煙だけが、この先の事故で亡くなってしまった犠牲者のために手向けられた線香のように、細く空に昇って行った。
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