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Smoke gets in Your eyes
気になる人がいる。
その人は私が通勤する時間帯、つまり一日で一番忙しい時間に、まるで一番のんびりしているかのようにゆったりと公園のベンチに腰掛け、ぼんやりと空を眺めているのだ。
のんびりしているように見えるのは、その人の手元にあるタバコ。
気にするようになってから手元に注意を向けるようになったそれは、いつも灰が重力の限界に挑戦するかのように長々と上背を伸ばし、しかしそれを口にくわえる事無く、指に挟んだまま空を眺めているのだ。それを見て間違っても忙しい人だなんて思う人はいないだろう。
ああ、今日もまたいつもの時間、いつもの場所にいる。
公園の入り口から少し進んだ先、ぽつんと1つあるベンチ。そこがお気に入りの場所なんだろうか、今日も今日とて時間ぎりぎりの満員電車に乗るべくショートカットのため通り過ぎる公園の一角に、昔置いてきた遊具の1つのように座っている。
気になったのはいつからだったろうか。
勤め始めてしばらくは大通りを通っていたが、ある日酔っぱらって帰ろうとした時にたまたまこの公園を見つけ、懐かしいと少し感傷的になりながら通り過ぎてみたらそこが案外近道なのを知った。
それからここを通るようになり、それからいつの間にかその人がベンチに座り、公園の光景に溶け込むようになった。はっきりといつからだという記憶はないかもしれない。
女性ではない、それは間違いないと思うが、正しい年齢は知らない。
何て言っても声をかけた事がないのだから。
気になれば声をかければいいじゃないかと言われるかもしれないが、だったら逆に聞いてみたい。知らない、しかも異性の男性に対して、どうやって声をかけるべきなのか。いや、そもそも声をかけるべきものなのか。
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