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レイジは東からやってきて、西へ向かうところだと大ざっぱに説明した。
旅の目的や、サラとの関係性は伏せた。サラと口裏を合わせている決め事のひとつ。
「気をつけて。もう誰も信用しちゃダメ。一年前の世界じゃないんだから」
いつものサラの口癖。
たぶんそれは九十九・九九九パーセント当たってる。
今、この地球上でレイジが信じられるのは彼女だけだ。
サラも同じと思う。
それでもサラはレイジに言う。
『どんなことがあっても、ゼッタイに私には触れないで』
サラと初めて出会い、彼女を助け出した直後だった。彼女はそう言い放ち、レイジは頑なにその約束を守っている。
嫌われたくないから。
離れたくないから。
「あの、食事、彼女に運んであげたいのですが……」
レイジは自分の夕食が終わりかけたところで、そう切り出した。
たいした世間話も共通の話題もない、初対面の麻沼神父と相対する時間が意味なく経過するより、サラの元へ向かいたかった。
早めに彼女と今後について話し合う必要があると思ったからだ。
この神父もこの教会も、よくよく考えればどこか怪しい……
レイジはそう感じ始めていた。
もはや生活インフラの崩壊した社会で、きちんとした自家発電装置を稼働させ、こうしてレトルトとはいえ食料を見ず知らずの他人にふるまい、しかも寝床まで無償で用意してくれるというのだ。助けてくれたことには感謝するものの、あまりにできすぎてる。アロスに追われる廃墟の街角で丘の上の教会の灯を見たときは、一縷の光明に救われたと神に感謝したが……
「どうぞ。こちらを」
声にはっとして意識を戻すと、金属のトレイにスープと黒パンと水が用意されてあった。
神父はにんまりと笑ってそれを差し出した。スープからは白い湯気が立っていた。
「よかったら、明日も明後日も、ここに滞在していただいても構いませんよ」
レイジはトレイを受け取りながら、曖昧に笑みを返した。
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