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「サラ、俺だよ」
三度目のノックが終わらぬうち、彼女はドアを開けてくれた。
麻沼神父は二人分の着替えまで持たせてくれたが、サラの格好は廃墟を走り抜けたときと変わらなかった。
体の曲線を隠すダボついたカーキのカーゴパンツにレザーブルゾン。足元は頑強な編み上げのアーミーブーツ。首元を守る特殊繊維で織られたスカーフ。そしてウエストには幾重もぐるぐるに巻かれたベルト兼ウィップ(鞭)。アロスの攻撃を制御するときには、なまじ銃声が反響しすぎるガンを使用するより効果的で、しかも貴重な銃弾の補てんが必要ない。伸ばせば四メートル以上になる、ちょっとした飛び道具だ。
レイジの姿を視認し、彼女は右手で構えていたガンをゆっくりと降ろした。
「具合、大丈夫?」
レイジが食事の載ったトレイを机の上に置いて訊ねる。
「もう平気」
サラは素っ気なく答える。そうして木製の四足チェアにどかっと座った。
「ねえ、やっぱここ奇妙だと思わない」
食事になど目もくれず、彼女はまっすぐレイジを見定めて言う。
「たしかにね。俺もついさっき夕食を食べながらそう思い始めてた」
「レイ、あんた、まさか食べたの?」咎めるような、詰問するようなサラの口調。
「出されたら食べずにいられないだろ。目の前に神父がいるんだぞ。今、彼の気を損ねたところでいいことにはならないだろうし」
サラはふっと鼻で笑う。
「相変わらず、アマちゃんね。あんたって。私、今すぐにここ抜け出したってかまわない。ていうか、そうしたいし」
言いながらウエストホルダーにようやくガンをしまい、安全装置をONにした。
返す言葉が思いつかず、レイジは黙ったままそんな彼女の横顔をじっと見る。
サラはきれいだ。
夜の公園での月明かりに照らされた第一印象からそれは変わることがない。
白人との混血児のような彫りの深い面立ちで、鼻はすらりと高く、瞳は藍色がかった複雑な色彩のブラウンを帯びている。しかも意志の強そうな、射るような目力が印象的だ。唇は薄いピンクで、尖った顎とのバランスが絶妙。額からその顎にかけての目鼻口と耳のレイアウトは完璧といっていい。それでいて男勝りに気が強くて、短気で、しかも無鉄砲だけれど、特殊な勘みたいな鋭い感覚に守られていて、涙もろくて……サラを形容し始めたなら、きりがない。
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