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どうしてこんなことが……一瞬で世界は変わってしまっていた。
あるいは人類が気づかないだけで、地中深くでは奇矯な事態が進行していたのだろうか。
追われ続けてもう二十分近く。
初動の群衆はわずか七、八体だったが、今では三十体をゆうに超えた。時間の経過とともに、タイムアウトとなった化け物が目減りすることを淡く期待したが、まるで見当違いだった。動く標的を狂ったように追う集団に触発されて、どんどんまわりから群がるように集まってきている。化け物が化け物を呼ぶ、負の連鎖。
行き交う車が一台もいない車道を、レイジとサラの二人はひたすら走り続け、逃げ続けた。
無造作に連なって駐車してある何百台、いや何千台もの車輛は、どれも例外なく窓ガラスが粉々に破られ、ボンネットが引き剥がされ、タイヤは盗まれ、車内は荒らされている。
もちろん貴重なガソリンはすべて抜かれているに違いない。それら廃車の脇をすり抜けつつ、レイジはもう一度サラの様子をちらっと伺った。
いくら元陸上部で走るのが得意な彼女でも、息が上がっているのは目に見えてわかった。
ジョギングコースや競技場を走るのとは訳が違う。
転んだらアウト。
失速してもアウト。
諦めてもまたアウト。
無数の化け物に追われ、死と背中合わせというハイプレッシャーの極限状態での疾走だ。
そろそろ全速力で走り抜く限界点が近づいている。
それはレイジも同じだった。
と、突然だった。目前で傾いだ大型ダンプの脇から、元来は大柄な男と思しき、リアクト(過剰免疫反応)したアロスが飛び出してきた。
意味不明の怒声を張り上げながら、先頭を走るレイジの進行方向を阻止するべく仁王立ちとなり、彼を掴まえようと長く太い両腕を振り広げ、一気ににじり寄ってくる。
それよりも一瞬素早く反応したレイジ。
迫りくる化け物にひるむことなく、ひび割れたアスファルトを軽々と蹴って長身を活かした華麗なジャンプを決める。
宙を舞うしなやかに鍛え抜かれた肉体。アロスの下顎をカウンター気味に左片膝で打ち砕く。
ぐごがぁぶぉげぶっ。
濁音だらけの悲痛な叫び。開けた口からだらりと伸びていた赤い舌が破れて切り裂けた。どす黒い血が夕闇に飛散する。間髪入れず、続けて右の回し蹴りを太い首元に捩じこむ。レイジよりさらに上背が十センチ以上もあるアロスの巨体が軽々と吹っ飛ぶ。
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