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それもこれも、廃墟の一角で突如としてアロスが猛然と追いかけてきたせいだった。
勘の鋭いサラですらまるで気配を感じる間を与えられなかった。
傍目にはサラを見てというより、別の要因で突発的に反応した先、たまたま彼女が居合わせたという状況にもレイジには思えた。
そしてレイジは、このあたりのアロスは今まで見てきたアロスと行動パターンが違うように感じていた。
おそらくサラも同じ考えのはず。
先ほどの追走に執着する様子が瞼の裏で再現される。
もしかすると別種のアレルゲンのせいか、と彼は勘ぐるように思惟を巡らしながら、
「まだ毒桜は、それに新たなアレルゲンは、爆発的に増え続けてるんでしょうか?」
神父に訊いてみた。
俯いていたサラが顔を上げて、非難がましくレイジの横顔を見つめる。そんなこと訊いたって無駄よ、とばかりに。その美しく整った顔に微妙な険が浮く。
「さあ、私にはまったくわかりかねますが、ただひとつ言えることは、この周辺でアロスが急増しているようです。どこにそんな数の生存者がいたのかと思えるほどに……」
一瞬、サラの視線がレイジの横顔を逸れ、神父を射るように見た。
「まあそういうお話はともかくとして、どうぞ今夜はお泊りになってください。たいしたものはありませんが、それでも夕食くらいはお出しできますから。清潔な寝床もご用意します」
神父はサラの視線に気づかないのか、温かな笑みを浮かべて言葉を続けた。
「温水とまではいかなくても、シャワーだって……」
「この教会に、ほかに人は?」
神父の言葉を遮る勢いで、初めてサラが口を開いた。レイジと二人きりで話すときとは声色もニュアンスも違う、ひどく構えた声。
それがレイジにはよくわかる レイジにとってサラは特別な存在だから。
神父はあからさまに大きく目を見開いてサラを見やると、残念そうに短い首を振った。
「かつては修道士が二十名ほどいて、街で生き延びた人も四十名以上が逃げこんで共同生活を営んでいたこともありましたが、今は誰も……私以外は」
「全員、リアクトしたの?」
サラは上目使いで神父を直視して訊ねる。
神父は言葉なく肯いた。
「あなた以外、強度の非免疫性はゼロだったの?」
重ねてずけずけと質問するサラ。神父は今度は両肩をすくめ、困ったような笑みを浮かべた。
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