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「なるようになるでしょう。懇意にしている他の寺の住職さんや寺に残っている者達に、任せられる仕事は割りふってきましたので。明日の昼までには遅くても帰らなければなりませんから、そうのんびりもしていられませんが」
さすがは大手企業の元秘書だ。
「さて、と」
そう呟いて堤防から降りると、悠真が悩殺級な笑顔を私に向けながら、右手を差し出してくる。
今まで、日干ししていた魚状態だったから頭がクラクラしているのか。それとも、乱反射しているバックの海の煌めきが、彼の笑顔を更に眩しいものにして、私の瞳をクラクラさせてしまっているのか。
二十九歳、アラサー女子の私……今、確実に青春している。
これが人気俳優に旬な女優のドラマの最終回なら、間違いなくキュン死に悶絶しそうなシチュエーションだよね。
そう実感しながら、おずおずと悠真に向かって手を伸ばし。
掴まれたと思った瞬間に、物凄い力で引っ張られ、私は堤防から飛び降りる格好となった。
「きゃあぁっ」
私の身体は、一直線に悠真の身体へと向かって着地した。
「も、もぅっ。いきなり引っ張らないでよ。ビックリするでしょっ」
悠真に真正面から腰の位置で抱き抱えられた状態で、地面についていない足をバタバタさせながら喚く。
そんな活きの良い高知の魚のように動く私の身体を、メリーゴーランドのように何回転か回すと、ようやく悠真は私を地面へと降ろした。
昔爆発的に流行ったトレンディドラマみたいだ。幼いながらに憧れた記憶がある。
ただ少し違うのは、何をしてもさまになる超絶ハイスペックイケメンの悠真に、超絶平凡ピーポーな私という摩訶不思議な組合せ。
細身のイケメン俳優に、ぽっちゃりな女性お笑い芸人を相手役にコマーシャルに起用してるのを見たけれど、あれぐらいにアンバランスだと思われる。
それなのに、奇跡のシーンはこれだけでは終わらずにまだまだ続く。
「奈津」
ふいに自分の名前を呼び捨てにされて、はいと返事する私の声が、やはり変に裏返る。
フッと微笑みながら、悠真が私の目の前に差し出してきたもの。それを見て、私はそれと悠真を何度も交互に凝視する。
「こ、こ、これって」
「プロポーズは、確か高知の海の前が良いってうちの祖母に言っていましたよね?煩わしいことが全て片付いてゆっくりしてからとも思いましたが」
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