ニヒルな坊主①

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◆◇◆◇◆ 「実は、今日の夕方、コンビニで出会う前の貴女の姿をお見かけしていたんですよ」 「え……どこでですか?」  お風呂に入って、ハゲ坊主の母親に右足に湿布を貼って包帯で巻いてもらって。 一人暮らしの自分のマンションでは、きっと味わうことが出来なかったであろう、すこぶる美味しい手の込んだ手料理を御馳走になり。 通された客間で、なんとなく静かな感じが嫌で、私はテレビをつけてバラエティー番組を観ることにした。でも、内容が全く頭に入らない。頭の中は、相変わらずレストランでのやり取りで一杯だった。  そこへ、お風呂に入って食事をして済ませたというハゲ坊主が、私が先程コンビニで買ってきたお酒を持ってきてくれた。湯上がりで、お互い寝間着に着替えているということもあり、勝手に一人で妙な緊張感を感じていた。  ハゲ坊主は、缶ビールをコップに注ぐと、それを私にどうぞと渡してくれる。母親の手作りであろうおつまみも、私が買ったさきいかやナッツと共に出してくれた。ハゲ坊主は、冷酒を飲んでいる。  テーブルを挟んでお互い座って、私が何を話そうか内心困っていた時に、ハゲ坊主がそう切り出した。 「勤めている会社でしょうか。商社ビルから出てきたところを。まだずぶ濡れになる前の貴女が、私の前を通り過ぎたのです」 ……あぁ。まだ何も知らずに浮かれていたあの時ね。 「香水の香りでしょうか。私の好みの香りがしたので、貴女のことは覚えていました。それにあの時の貴女は、とても幸せそうな顔をされていて。見ている此方まで幸せな気分になるような……」 そういえば、香水も新しいのを店員さんに薦められて買ったんだった。男性ウケが良いって言われて。 「そ、そうですか」  私は照れる余り、ビールをつい、いつもより勢いよく呑んでしまう。 「まさか、また同じ方に、あのような状態で出会うとは思いもしませんでした」 だから、天国から地獄って言ったのか。 「姿が変わり過ぎてて、ビックリしたでしょう。雨のせいでメイクも何もかもとれちゃったから」  そう言ってハゲ坊主に無理矢理作り笑いをしつつ、おつまみに手を出そうとした瞬間だった。ナッツに手を伸ばした私の左手を、ハゲ坊主が掴む。  あまりに唐突な出来事で目を丸くする私に、ハゲ坊主は私の左手を掴んだまま冷酒を一口呑む。 「指輪……やはり貰えなかったんですね」
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