ニヒルな坊主①

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「やっぱり?」  私が不思議そうに問いかけると、ハゲ坊主はその現場を目撃していたのか、それとも予知能力者であるのか、今日私の身に起こったことを話し始めた。 「何で知ってるんですか?」  長年付き合っていた彼氏がいたこと。その彼氏に浮気されて、浮気相手が妊娠していたこと。私が今日誕生日で、プロポーズを期待して、彼氏との待ち合わせ場所へ行って、そしてフラれて帰ってきたこと。  自分から話す前に全てを言い当てられて、しかも、ハゲ坊主がその間ずっと左手を掴んだまま離そうとしないので、動揺を隠せない。 「あぁ……失礼。あまりに貴女の手が触り心地が良かったもので、つい」  そう言って、掴んだ手を離して代わりにおつまみに手を伸ばすハゲ坊主を、私は何も取らずに引っ込めながら、また穴が開く程に見つめる。 この人、今までに出会ったことがあったっけ?  すると、私の心の中で呟いた疑問を読み取ったかのように、ハゲ坊主が口を開く。 「実は、ちょうど一年前の貴女の誕生日。私は貴女にお会いしているんですよ」 「え……」 「認知症のおばあさんとベンチで話していたことを覚えていませんか?」  私は咄嗟に一年前の記憶を思い巡らせた。 「あ……覚えてます」  一年前の誕生日。その日は久しぶりに有給休暇をとっていた。 亨と付き合い始めた頃によく来ていた公園で、昼下がりに待ち合わせしていた時のことだ。  ベンチに座っていると、腰の曲がった小さなおばあちゃんが、にこにこ笑いながら私の隣りに座ってきた。 お地蔵様みたいなおばあちゃんだな。  そう思いながら見ていると、やんわりと話しかけられた。 当たり障りのない天気の話から、実は今日自分が誕生日だということ、彼氏をここで待っているということ。話している途中で、おばあちゃんが認知症だと気付いた。だからなのかもしれない。 プロポーズを期待していることや、指輪はこんなのが欲しい、こんな場所で結婚式を挙げたい、新婚旅行はここへ行きたいなどと、気づけば自分の願望をおばあちゃんに喋りまくっていた。  お地蔵様みたいなそのおばあちゃんは、にこにこ微笑みながら、私の話を楽しそうに聞いてくれた。
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