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しばらく話していて、おばあちゃんに何処から来たのか尋ねてみると、案の定どこから来たのか分からないという返事が返ってきた。
交番に連れて行った方が良いのかな。
そう思っていると、前方から走ってくる男性の姿が目に映る。
「お祖母様、此処まで来ていらしたんですね。随分と捜しましたよ。無事で良かった。皆も心配しておりますから、早く帰りましょう」
すると、お地蔵様みたいなおばあちゃんは、私に嬉しそうに私の主人なのと言って立ち上がった。どう見ても孫だろうというその人は、私の方をチラッと見ると、丁寧に頭を下げた。
「祖母がお世話になったようですね。ありがとうございました」
「いえ、私はただここでお話していただけなんで……」
触ると柔らかそうな、少しだけ茶色がかった黒髪の背の高い男性だ。それでは、と言うと、男性はおばあちゃんを連れて去って行った。そして、入れ違いに亨がやって来たのだった。
「あなただったんですね。ハゲ坊主になっていたから全然気づかなかった」
おばあちゃんから私の話を聞いたのかな。だから、予知能力者のように……。
「ハゲ坊主、ですか……」
つい、心の中でそう呼び続けていた呼び方が、表に出てしまった。
「わわわ、ごめんなさいっ」
「別に構いませんよ、本当のことですから。今はハゲですし、坊主ですし」
そう言って静かに冷酒を口にするハゲ坊主の頭の方を申し訳なさそうに見ながら、私は尋ねてみる。
「その……あの時は、まだお坊さんではなかったんですか?」
「そうですね。あの時は、まだ会社勤めだったものですから」
「会社、辞めたんですか?」
「えぇ、父が半年前に亡くなりまして。跡を継ぐ為に、坊主になりました」
「それはお父様のことも、お仕事のことも大変でしたね」
自分でも予想だにしない、お悔やみの言葉が自然と口をついて出てくる。お寺にいるせいかしら。
お坊さんの世界がどんなものかは全く分からないけど、なんとなく大変な世界のような気がする。修行とか、普段の生活とか、仕事とか。
お父さんもまだ亡くなって間もないようだし、このハゲ坊主も一気に人生が変わったんだろうな。
私も、今日で大分人生が変わってしまったと思う。……ていうか、リセットだ。いや、気持ちはゲームオーバー級のゼロだ。
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