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「気遣ってくれるんですね。今は、貴女の方が辛い立場でしょうに」
ハゲ坊主と目が合う。……そういえば、今日コンビニで出会った時から思っていたことだけど。
「えっとあの、お坊さんは……」
「ハゲ坊主で構いませんよ」
私が顔面蒼白気味にブンブンと激しく頭を横に振ると、ハゲ坊主は例のごとく口元に手を当てて忍び笑いした。
「上重悠真です。悠真で良いですよ。仕事の時はゆうしん。プライベートの時はゆうまです」
お坊さんって、名前の使い分けをしてるんだぁ……。
……いや、そうは言っても名前呼びする訳にはいかないでしょ。
「上重さんって、感情があまり表に出ないタイプの人っぽいですよね」
「えぇ、よく言われます。この職に就いてからは職業柄だと思われている為か、何も言われなくなりましたが……。一般の会社に勤めていた頃は、一部の方々からは冷血漢だの鉄仮面だの鬼畜だのと、色々言いたい放題言われていたようです」
やっぱり。
自分の会社やクライアント先にこの手のタイプがいたら、手強いしキツいだろうなぁ。
淡々と無表情で仕事を完璧にこなし、ミスに対して的確にダメだししてきそうな感じがする。
でも、そういえば。
「さっき、上重さんのお母さんに手当てしてもらっている時に言われましたよ。今日は、いつもより、上重さんの雰囲気がとても柔らかく感じられたって。きっと、私のビフォーアフターがあまりにも可笑しかったんでしょう?」
そう言って二本目の缶ビールに手を伸ばしつつ、今日の会社を出た時の姿と、コンビニでのあの悲惨な姿を思い出す。
うん、絶対に笑える。
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