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◆◇◆◇◆
それから、十数分後。
ハゲ坊主との不毛なやり取りを続けているうちに、我関せずを貫き通した運転手の運転するタクシーが停まった。
「着きましたよ」
そう言って、運転手にお金を支払って領収証を受け取ると、ハゲ坊主は私に出るように促す。
「着きましたよって……」
「いいから、ついてきて下さい」
立派な寺の外観をタクシー越しに見ながら戸惑っている私にそう言うと、ハゲ坊主は私の手を取り、外へと引っ張り出した。
「雨降って地固まると言います。仲直りして下さいよ、ご両人」
狐のような顔をした初老のタクシー運転手が、初めて業務用以外の言葉を私達に告げてにっこり微笑んだ。
「……は?」
何をどう聞いたらそうなるの?
口をあんぐり開けて驚く私を無視して、タクシーは夜の闇へと消えて行ってしまった。
私に腕を貸していたハゲ坊主は、そんな私の様子を見て、またもや口元を押さえている。
「何がおかしいんですか」
「いえ、貴女の反応がいちいち面白いので、つい……。さて、早く中へ入りましょう。二人とも風邪をひいてしまいます」
「私は結構で……」
す、と突き放す前に、ハゲ坊主は私をまたしても軽々と抱き上げると、何事もなかったかのように、門の中をくぐってスタスタと寺の奥へと進みだす。
これって、誘拐なのでは?
「あのコンビニで出会ったのも、きっと何かの御縁なのでしょう。母に着替えを用意してもらいますから、まずは湯船に浸かって身体を温めてきて下さい。その手に持っているお酒が無くなるまで、今夜は私が付き合いますから。その様子だと、晩御飯もまだなのでしょう?母に用意させますから、食べてゆっくりしていけばいい」
「見ず知らずの人の家に上がり込んで、そんな図々しい真似が出来ると……」
ごぎゅるるるる……。
……。
有り得ない……どうして今このタイミングで鳴る?
100%、聞こえたよね?
恐る恐るハゲ坊主の顔を見る。私とハゲ坊主の視線がぶつかり合う。ハゲ坊主は我慢の限界とばかりに吹き出した。
「身体は正直ですね」
「……私のことなんか、もう放っておいて下さい」
もう別の意味で、泣けてくる。
「放っておけないから、拾ったんです」
こうして成り行きにつぐ成り行きの結果、私はその日出会ったお坊さんの家に、一晩御厄介になることになってしまったのだった。
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