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◆◇◆◇◆
「あらぁ。悠真さんたら、また拾ってきたの?」
……ま、また?
玄関に入ると、部屋の奥から出てきたハゲ坊主の母親らしき人が現れた。ほんわかした可愛らしい感じの人だった。
このハゲ坊主、悠真って言うんだ。
「えぇ、放っておけなかったものですから。つい拾ってきてしまいました」
「あらまぁ困った子ねぇ。とりあえず、そこにいても仕方がないからお上がりなさい。悠真さんは、とりあえず法衣を着替えて。えっと……あなた、お名前は何て言うのかしら?」
「はっ、原田奈津と申します」
「そう……奈津さんね。奈津さんは、先にお風呂に入ってね」
「この方、足を挫いているようなので、とりあえず風呂場まで連れていきますね。後、申し訳ありませんが、この方の分の食事もお願い致します」
「あらあら、足を挫いているの?可哀想に。だから抱き抱えていたのね。私、ちょっと見てはいけなかったかしらってドキドキしちゃったんだけど」
「この方が手っ取り早いので。それでは、よろしくお願いします」
「はいはい、分かったわ」
サクサク親子で会話が進むと、ハゲ坊主は私を抱き抱えたまま風呂場へと直行する。
「私の事は気にせず、ゆっくり湯船に浸かって下さい。後から母が着替えを持ってきてくれると思います」
「は、はぁ……どうも」
脱衣所で私を下ろすと、ハゲ坊主はさっさと出ていってしまった。
……どうかしてるぜ、私。
きっと、有り得ないことが起きすぎたからだ。
ぽつねんと一人残された私は、今更ながらに冷えきった身体の冷たさを思い出し、身震いした。
「入ろ……お風呂」
お風呂は、ミントの入浴剤が入っていた。
「良い香り……」
緊張がほどけた途端に、涙がせきをきったように溢れ出る。
他人の家の風呂場で声を上げて大泣きする訳にはいかない。けれど、止めようとすればする程、嗚咽は止まらない。
先程のレストランで味わった辛いやり取りへのストレス全部、一気に溶け出してしまえば良いのにと、濡れた手で顔を覆う。
最悪の誕生日だ……。こんな最悪の結末を迎えるくらいなら、真っ直ぐ家に帰っていれば良かった。電話で別れを切り出してくれた方が、私にしてみればまだマシだったかもしれない。
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