第二章 寵愛者 続き

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 目的地も目指す場所もなにもなかったが、一歩を踏み出して外に出なければならないと十七歳の頭で考えた。  俺は絶対に生き抜く。この狂った世界で。  そういう頑なな決意と覚悟だけがあった。   「またよ、くるわよっ! レイ」  サラの鋭い叫び声がレイジの辛い過去への回想を遮った。  闇夜に両目を戻す。両耳を集中する。ガンを握る両手に気と力を注ぐ。  迫りくる猛々しい足音と唸り声がするほうへ五感を定める。  複数。それも先ほどの襲来より多勢かもしれない。そうレイジは察知した。  あと数歩の距離にまで近づいていた親子もまた険呑な気配に気づき、意識を外敵に向けるようにして動きを止めた。  ややあって雑木林の暗闇から黒いアロスのシルエットが視界に現れる。  最初に迎撃を仕掛けたのはサラだった。  二発の銃撃。二体のアロスが頭を貫かれ、がくっと膝を折って姿を消した。 (サラ一発。レイジ一発)  残り弾数が、トリガーを引きかけたレイジの人差し指を躊躇させる。そんなことおかまいなしに猛然と走り迫るアロスは視認できるだけでまだ三体もいた。  五メートルまで接近したアロスの眉間に一発の銃弾が撃ちこまれた。  カオルコだった。続けてトリガーを引く彼女だが、聞こえたの銃撃音ではなく、カツンという虚しい金属音と苦々しい舌打ち。  至近距離に入った大柄なアロスの顔面にレイジは狙いを定めた。と、次の瞬間、サラの甲高い悲鳴。真横の別の角度の闇から新たなアロスが突然ぬうっと現れた。とっさ、レイジは素早く反応して銃口の向きを変え、サラに急接近するアロスを迎え撃つ。銃弾が右目を直撃する。アロスは瞬時に動きを失い、黒い血を撒き散らしながら仰向けで地に伏した。一方、サラは突如として出現したアロスの攻撃を避けようとして足元を木の根に引っ掛け、そのまま地面に倒れこんだ。すぐ目の前には先ほどの大柄なアロスが狂ったように吠えながら血の滴る大口をあんぐりと開け、両腕を伸ばしてレイジに襲いかかろうとしていた。(サラ一発。レイジ0発) 「サラ、ガンを!」  レイジが叫ぶと同時、体制を崩していたサラが右手に握っていたガンをレイジに放った。  闇で鈍く鉛色に光るガンをレイジは正確に掴み取る。それをしっかりと両手で握りしめる。触れたことのないサラの体温がグリップ越しに伝わる。
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