第二章 寵愛者 続き

7/7
前へ
/40ページ
次へ
 隣にいるサラの体が打ち震えていた。 「私は、もう一度だけ……」  むせび泣くカオルコの湿った声が切なげに届く。まるで懺悔するかのごとく。 「もう、一度だけ……」 「もういい。やめて!」  サラが声を張り上げた。 「狂った世界でもいいから……」 「もういいからっ! わかったから、カオルコさんっ!」  サラが泣き叫ぶ。 「母親を、まっとうしたかった。あの子に、なにもしてあげられなかった代償に……ごめんね」  カオルコの〝エンジェル〟はそれで終わった。  寵愛者はこの世を去った。  サラは両手で顔を覆い、嗚咽を漏らしながらその場へ泣き崩れた。  レイジは深いため息をつき、煌々と大地を照らす太陽を睨んだ。  今日もまたこの世界を地獄絵に塗り替えるため、一日を始めようというのか?  誰にでもなく彼はそう問うた。  その問いかけ自体が無駄なことだと知りながらも。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加