0人が本棚に入れています
本棚に追加
隣にいるサラの体が打ち震えていた。
「私は、もう一度だけ……」
むせび泣くカオルコの湿った声が切なげに届く。まるで懺悔するかのごとく。
「もう、一度だけ……」
「もういい。やめて!」
サラが声を張り上げた。
「狂った世界でもいいから……」
「もういいからっ! わかったから、カオルコさんっ!」
サラが泣き叫ぶ。
「母親を、まっとうしたかった。あの子に、なにもしてあげられなかった代償に……ごめんね」
カオルコの〝エンジェル〟はそれで終わった。
寵愛者はこの世を去った。
サラは両手で顔を覆い、嗚咽を漏らしながらその場へ泣き崩れた。
レイジは深いため息をつき、煌々と大地を照らす太陽を睨んだ。
今日もまたこの世界を地獄絵に塗り替えるため、一日を始めようというのか?
誰にでもなく彼はそう問うた。
その問いかけ自体が無駄なことだと知りながらも。
最初のコメントを投稿しよう!