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「何よ……これ……」
にこ達が先ほど過ごしていた部屋の面影は微塵もなかった。
部屋全体には薄っすらと黒い《もや》がかかっていた。テーブルはくの字になって折れ砕かれて、ソファは酷く破れ、綿やスポンジが飛び散っていた。
家具もほとんどのものが壊され、花がさしてあった花瓶も無惨に砕け散っていた。
テーブル周りにはトランプが散らばっていた。きっとババ抜きをしていたのだろう。
そこに突然と現れたのだろうと科学的、物理的根拠はなくとも瞬時に理解する。
それは部屋を見て一番大きな違和感だった。
人型の何かがいた。
装飾したものもなく、黒く黒く、ただひたすらに黒い鎧を装着している。
顔も西洋甲冑のような兜がつけられていた。視界が見えるように目の辺りは細くくり抜かれていた。
その右手には幅が広く分厚い煤を纏わりついたような直剣を握っていた。
その黒い人型が見下ろしている先には______
「穂乃果ぁぁ!!」
ソファに阻まれ表情は見えないが床にへたり込んでいる穂乃果に全力で呼びかける。
「今すぐこっちに!早く逃げて来て!!」
しかし、穂乃果には聞こえていないように見て取れた。
「っ!!」
___まずい
___このままでは、まずい
直感的に理解したにこは穂乃果の元へ駆け出す、と同時にスッ…と黒い人型が直剣を頭の上まで突き上げる。
ギラリと直剣が嫌な光り方をする。
___そんなのはダメだ
___間に合わなきゃ、ダメだ
走りながらにこの握ったウェーブナイフの柄に力が込められる。
絡まりそうになる足を、必死に前へ前へと突き動かす。
____そんなことさせない
____ダメだよ、そんなの……絶対、絶対
「ダメェェェェ!!!!」
そう叫んだ、その一時だけ世界が遅く見えた。
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