記憶と記録と思い出と――

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「あんたには分からないわよ! 私たちの思い出がどれだけ大切かなんて!」  ロボットAIクリーンアップ――。俺が勤める会社の事業の一つ。メモリーオーバーした人型アンドロイドを回収し、重要度の低いメモリーを削除してメモリーディスクを入れ替える仕事だ。これはアンドロイドからメンテ信号を受信して俺達回収屋が回収、クリーンアップをしてお客様に返却する。  これが行われないとロボットの動作停止や暴走事故につながる為、国の法律で決められている。 「大丈夫ですよ。人と同じで大切なことは忘れませんから」 「そう言って前に連れて行った時は何もかも忘れて帰って来たじゃない!」  お客様から良く言われること……あまり気にしていたらいけない。俺はその後マニュアル通りの対応でアンドロイドを連れて会社に戻った。額の電源ボタンを押し、強制スリープモードにしてから回収用ロボットに任せる――。作業としては簡単な業務だ。 「先輩、今日のお客様も以前のメンテの時に何もかも忘れて戻って来たって言ってたんですけど」  事務所で待っていた先輩に今日の業務報告をした後、そんな事を言ってみる。 「ああ、大げさに言ってるだけだろ」  メモリーの三十パーセントを削除――その選定は反復度やAI連想使用度でランク付けされた内で不要度の高い物が消される。そのメモリー量はおよそ三年でメンテが必要とされる程度。 「でもまあ……分からんでもないな」 「どういうことですか?」  俺より勤務が五年長い女性の先輩――。彼女もアンドロイド利用者なので何かピンとくることがあるのかもしれない。 「人間相手でも一緒だけど、こっちが一方的に覚えてることってあるだろ? 思い出深かったこととか腹が立ったりしたこととか。そういうのを忘れられると、こいつは何も覚えてない……って思っちまう。アンドロイドのクリーンアップも同じで、利用者とAIで重要って思ってるものに違いがある。そうなると何もかも忘れて帰って来たなんて思われても仕方ない」  確かに一方的に覚えていることってのは多い。逆も然り……まあ、俺の場合は特殊だけど――。 「そっか、お前は十年前までの記憶が無いんだっけか」  先輩は俺の頭を見つめてそうつぶやいた。そう、俺は十年前の高校卒業以前の記憶がすっぱりと無くなっているのだ。
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